▸病態
会陰ヘルニアは骨盤隔膜(尾骨筋および肛門挙筋)が弱り、直腸などが肛門の横に逸脱して会陰部が腫れてしまう病気です。主に未去勢の中高齢犬で多いです。
▸臨床症状
臨床症状としては直腸が肛門の横に出てしまうことによる排便障害や便秘、疼痛が見られますが、膀胱、前立腺が逸脱してしまうと、沈うつと嘔吐、排尿障害を伴う重度で致死的な尿毒症になることもあります。
▸診断
診断方法は指で直腸検査を行い、直腸が肛門の横に出てしまっていることや筋肉による支持が出来ていないことを確認します。また膀胱が反転してヘルニアになっていないかを確認するためにも尿道カテーテルの挿入、X線検査や超音波検査、場合によってCT検査も行います。
▸治療
肛門の横に出てしまった直腸を腹腔内に戻し、骨盤の周りの筋肉、組織を利用し支持組織を再建する手術を施術しますが、状態によっては開腹して結腸、膀胱、前立腺固定が必要になることがあります。症状によっては再手術が必要な場合があります。また尿毒症が認められた場合には、手術前に救急の処置が必要で、膀胱から尿を抜き、膀胱にカテーテル留置し、静脈点滴等で尿毒症治療が必要となります。
ク―ちゃんのケース (会陰ヘルニア、前立腺嚢胞)
もともと他の病院で、会陰ヘルニアの治療をうけておられたそうですが、次第に排便ができなくなり、お尻がパンパンにはれてきたと来院されました。エコー、CT検査をした結果、膀胱、結腸、前立腺嚢胞がヘルニア内に飛び出していました。ヘルニア内容物に圧迫され、全然尿も出ない状態で、腎不全にもなっていたので入院となりました。
去勢手術後、ヘルニアの手術に入りましたが、広範囲のヘルニアのため、開腹して前立腺・膀胱・結腸を還納しようと試みました。しかし、複数の肥大した前立腺嚢胞が癒着し還納を妨げていたので、臓器を還納するため前立腺嚢胞も切除しました。前立腺・膀胱・結腸をお腹の中に還納できたので、膀胱・結腸・前立腺の固定手術を行ってからヘルニア整復手術を終えました。 後は徐々に排便・排尿も出来るようになり、他の子と比べると入院が伸びましたが元気に退院されました。 体の負担を軽くするため超音波メス、RFナイフを用いました。
ソルトちゃんのケース (会陰ヘルニア)
ソルトちゃんは、最初に受診した病院では、「ひどい会陰ヘルニアで、治療は無理です。」と言われ、次に別の病院にいかれましたが、同様に「治療は難しいので、大阪にある二次診療病院を紹介します。」と言われて受診されました。
その病院で「大掛かりな手術になる。」と言われ、セカンドオピニオンとして当院を受診されました。当院では、体にあまり負担のかからない方法での手術をし、元気に退院されました。
シドちゃんのケース (会陰ヘルニア)
会陰ヘルニアがあり、排便にも苦労しており、手術もお勧めしていたシドちゃんが、急に膀胱破裂を起こし、虚脱状態で来院されました。緊急手術となり、破裂した膀胱の修復手術と、会陰ヘルニアの手術、去勢手術となりました。
癒着した膀胱と、伸びきって弱った筋肉と靭帯のため、長時間の手術となりましたが、手術後、日に日に回復が見られ、無事退院されてから、今日診察に来られましたが、すごく元気で表情も明るかったです。
レオちゃんのケース (会陰ヘルニア)
便が出にくいということで来院されました。触診で臀部の右側の筋肉が薄くなってきていて会陰ヘルニアになっていると分かりました。CT検査で詳しく調べた後、会陰ヘルニアと去勢手術を行いました。入院治療を行い、出にくかった便が出るようになってきたため無事退院されました。