▸病態
膝蓋骨は太ももの筋肉(大腿四頭筋)の力を脛骨に伝える「滑車」のような働きをしており、本来は大腿骨の末端にある大腿骨滑車溝という溝に収まっています。膝蓋骨脱臼は膝蓋骨が滑車溝から外れて太ももの力をうまく伝えることが出来ず、歩行が困難になってしまう病気で、小型犬ではほとんどが内側に外れることが報告されています(98%)。
▸臨床症状
歩行異常、疼痛などがみられます。
▸診断
レントゲン検査による膝蓋骨の脱臼の有無や用手法による脱臼の程度の評価を行います。
▸治療
外科適応でない症例では主に保存療法を行います。具体的には1~2週間消炎鎮痛剤の投与とレーザー処置を続けます。また膝への負担を軽減するため減量や飼育環境の改善(フローリングの上にマットを敷くなど)が必要となる場合があります。一方、脱臼頻度の多い場合や疼痛が頻繁にみられる場合には外科的処置が適応となります。成長期では、リハビリ(I-Z運動)を飼い主に行ってもらい、骨格の矯正をはかることもあります。
膝蓋骨脱臼外科手術
外科的処置にはその重症度により様々な方法が報告されていますが、一部を紹介いたします。
滑車楔状造溝術
これらの術式は主に膝蓋骨が普段収まっている部分(大腿骨滑車溝といいます)の溝を深くすることで膝蓋骨の脱臼を防ぎます。
脛骨粗面転移術
膝蓋骨と脛骨をつなぐ腱と付着している面(脛骨粗面といいます)を骨ごと切り出し、新たな位置に固定することで膝蓋靭帯の位置を調整します。
内側支帯のリリース、外側支帯の縫縮
整復後の予後は運動機能の改善が見込まれますが、再脱臼する可能性もあります。膝蓋骨や大腿骨滑車の軟骨損傷がある場合には関節炎を起こしている場合があります。
ココちゃんのケース (膝蓋骨脱臼)
歩くとき右後肢の膝をまげずに歩くとの事で来院されました。レントゲンを撮ってみると両側が膝蓋骨内方脱臼をしていて、特に右側が外れて元に戻らない状態でした。まずは右足の膝蓋骨内方脱臼整復手術、退院後様子をみてもらい、少し間をあけて左膝蓋骨脱臼の整復手術を行いました。
現在は通常通り歩くことができるようになりました。
チョコちゃんのケース (膝蓋骨脱臼)
両後肢の膝蓋骨脱臼をしていたチョコちゃんは11月と2月の二回に分け、整復手術を受けられました。手術・入院治療を終え元気に退院され、今は両ひざとも動揺なく、歩行もよくなっています。
コッペちゃんのケース (膝蓋骨脱臼)
トリミング併設の動物病院で、無料健康チェックがあり、受けてみると「膝蓋骨脱臼があるので、すぐ手術が必要です。」と言われたそうです。そのため、心配でセカンドオピニオンで来られました。
すぐ手術が必要というほどのことではありませんでしたが、飼い主様は先の事を考えられて手術を希望されました。