慢性腸症▸
病態
慢性腸症は3週間以上の慢性的な消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛、吐き気、食欲不振、体重減少など)を呈し、なおかつスクリーニング検査において原因の特定に至らない消化器疾患の総称とされています。発生機序としては粘膜バリアの異常、腸内細菌叢の数的・質的異常および免疫細胞の過剰な活性化などが考えられていますが、不明な点が多いとされている疾患です。慢性腸症は治療反応性から食事反応性腸症、抗菌薬反応性腸症、免疫抑制剤反応性腸症および治療抵抗性腸症に大別されます。
▸臨床症状
嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少、粘血便や黒色便(メレナ)が認められることが多いです。
しかし、疾患の重症度や病変の発生部位によりさまざまな症状を示すことがあります。
▸診断
慢性腸症はさまざまな要因が複雑にかかわっているため、診断・治療には多くの検査、時間が必要になります。慢性腸症を診断するうえでまず行わなければならないのは、現在起こっている慢性消化器症状の原因となりうる他の鑑別疾患を除外することです。
問診、身体検査、血液検査、糞便検査、尿検査、胸腹部X線検査、腹部超音波検査など一般検査によって感染、異物、腫瘍、消化管以外の疾患(肝胆道系疾患、膵疾患、腎疾患、内分泌疾患など)を除外します。慢性腸症と疑われた場合、試験的治療や内視鏡検査および病理学的検査などを実施していくことになります。
マミちゃんのケース (消化管内腫瘍疑い)
最初に行った病院で、ひどい嘔吐のため診察を受け、消化管内異物の疑いもあり、転院。次の病院でも消化管内異物の疑いで継続治療しましたが改善がなく、内視鏡での異物摘出依頼で、その病院からの紹介で来院されました。嘔吐も激しく、レントゲン写真では、多量のガスが見られ、内視鏡検査も行いましたが、異物は発見されませんでした。ただ、胃の入り口の所にひどく腫れている部分があり、腫瘍の疑いもあったので、十二指腸から胃の内部まで数カ所バイオプシーを行いました。念のため、小腸から結腸にかけては、造影検査を行いました。
幸い組織の検査結果、造影検査ともに問題はありませんでした。数日の入院治療により、元気に退院しました。 紹介の先生も、一緒に喜んでくれたそうです。
チーちゃんのケース(内視鏡検査 胸腔内リンパ節の腫瘍化)
他院より、「バリウム造影検査において、食道に何か詰まっているので、内視鏡検査をお願いしたい。」と紹介されました。
当院におけるレントゲン検査で、胸水を認め、胸腔内の腫瘍が疑われましたが、食道内にもバリウムがはっきり残っているため、飼い主様の希望により内視鏡検査を行いました。
内視鏡検査では異物は認めず、食道が胸腔側から圧迫を受け、狭くなっていました。
細胞診断検査において悪性リンパ腫と診断されました。胸腔内のリンパ節の腫瘍化により食道が圧迫され、飲食物の不通過が症状を引き起こしていたものと考えられます。 今のところ抗癌剤を使わない内科治療での改善を希望されています。
マイロちゃんのケース (髄外性形質細胞腫)
最近食欲がなく、体重が減ってきたため他院で検査をしてもらうと肝臓、腎臓、十二指腸に腫瘤があると言われ、セカンドオピニオンで来院されました。
CT検査を行ったところ、胃、腎臓、肝臓、腹腔内リンパ節に腫瘤があり、さらに内視鏡検査行いました。
検査の結果、転移はあるものの、抗がん剤が効く腫瘍だったことがわかり、通院しながら抗がん治療を行っています。