慢性腸症▸
病態
慢性腸症は3週間以上の慢性的な消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛、吐き気、食欲不振、体重減少など)を呈し、なおかつスクリーニング検査において原因の特定に至らない消化器疾患の総称とされています。発生機序としては粘膜バリアの異常、腸内細菌叢の数的・質的異常および免疫細胞の過剰な活性化などが考えられていますが、不明な点が多いとされている疾患です。慢性腸症は治療反応性から食事反応性腸症、抗菌薬反応性腸症、免疫抑制剤反応性腸症および治療抵抗性腸症に大別されます。
▸臨床症状
嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少、粘血便や黒色便(メレナ)が認められることが多いです。
しかし、疾患の重症度や病変の発生部位によりさまざまな症状を示すことがあります。
▸診断
慢性腸症はさまざまな要因が複雑にかかわっているため、診断・治療には多くの検査、時間が必要になります。慢性腸症を診断するうえでまず行わなければならないのは、現在起こっている慢性消化器症状の原因となりうる他の鑑別疾患を除外することです。
問診、身体検査、血液検査、糞便検査、尿検査、胸腹部X線検査、腹部超音波検査など一般検査によって感染、異物、腫瘍、消化管以外の疾患(肝胆道系疾患、膵疾患、腎疾患、内分泌疾患など)を除外します。慢性腸症と疑われた場合、試験的治療や内視鏡検査および病理学的検査などを実施していくことになります。
血栓塞栓症
‣病態
心臓内や血管内で血液が凝固し、それにより血流が阻害される疾患です。
この病気の7~8割は心疾患に関連して発生しており、9割程度が腹大動脈の分岐部に塞栓し、後肢不全麻痺・壊死を起こします。
‣臨床症状
血栓塞栓により筋肉の虚血性障害、末梢神経障害が起こっている影響で後肢不全、心筋症により胸水や肺水腫が起こり呼吸が荒くなるなどの症状があります。
また、激しい痛みにより叫び声をあげる場合もあります。
最も起こりうる後肢の血管以外に、前肢、内臓、脳、心臓の冠血管などどこにでも起こる可能性があり、内臓障害・脳障害が起こり、最悪の場合突然死を引き起こす場合もあります。
‣診断
レントゲン検査で整形外科的な病気の除外のための検査を行ったり、超音波検査により血管内・心臓内に血栓があるかどうか、血流が途絶えている部位があるかどうかを確認します。また、不自由な足とその他の部分での乳酸値を比較し、虚血状態の有無を確認します。
‣治療
治療は主に血栓に対する治療と血栓によって生じた痛みに対して行う治療があります。
血栓に対して行う治療は、「血栓を溶かす・除去する」、「これ以上大きくならない・新たに作らないようにする」の2つがあります。血栓溶解薬を用いたり、外科的に血栓を摘出する治療があります。抗凝固薬、抗血小板薬によって血栓がそれ以上にならないようにする治療法があります。
痛みに対しての治療は1日目は重度の痛みがありますが、2日目からは和らいでいきますが、痛み止めなどで痛みの緩和を行います。
▸病態
てんかんは脳の慢性疾患で、脳内の神経細胞に突然発生する激しい電気的興奮によって発作が起きます。
落ち着きがない、筋肉にけいれんを起こす、よだれが出る、床を舐める、遠吠え、全身の筋肉を突っ張る発作、手足などを震わせる、全身が脱力して一時的に意識がなくなるが直ぐに元に戻る、重度の場合は1日のうちにも発作を繰り返す、発作が連続してしまう等色々な症状がありますが、速やかな受診が望ましいです。
発作を繰り返す場合、抗てんかん薬を投与します。症状が進んでからでは、薬が効きにくく、早期に始める方が制御しやすいです。原因不明又は遺伝に関連する(特発性てんかん)と、脳障害による(症候性てんかん)、全身性疾患による(反応性発作)に分けられます。
発作の原因を詳しく調べるにはMRI検査・脳脊髄液検査・神経学的検査・血液検査等が必要になります。
斜頸とは頭を一方向に傾けている状態を表しており、中枢や末梢からなる前庭器官の疾患による神経学的な異常の一つです。ほかの症状としては旋回運動や眼振、顔面神経の麻痺などがみられることもありますが、中枢性と末梢性の鑑別が重要となります。耳鏡検査や神経学的検査、血液検査、レントゲン検査やCT, MRI検査などを用いて診断を行います。
▸病態
椎間板ヘルニアは犬において最も頻繁に遭遇する脊髄疾患で、脊椎の間に存在するクッションの役割を担う椎間板が、脊髄を圧迫することによって引き起こされる病気です。病変部位により頸部椎間板ヘルニアや胸腰部椎間板ヘルニアに分類されます。
▸臨床症状
頸部椎間板ヘルニアでは頸部痛、麻痺、歩行異常などがみられます。また胸腰部椎間板ヘルニアでは麻痺、歩行異常、活動性の低下、背部痛由来の背弯姿勢などが認められます。また排便、排尿異常がみられる事もあります。
▸診断
椎間板ヘルニアの診断としてはレントゲン検査や脊髄造影CT検査などで診断します。
▸治療
治療法を選択する上で重症度を評価することは予後が異なってくるために重要です。内科的治療は主に疼痛のみ認められる場合に行われ、レーザー治療、消炎鎮痛剤の投与、を行います。
また重症度が高い症例では減圧を目的に脊髄を圧迫する椎間板物質の除去による外科的治療が選択されます。予後は術前の神経学的徴候の重症度に依存するといわれています。
膵臓は、胃や十二指腸に沿って存在する小さな臓器で、インスリン等のホルモンを分泌したり、消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌したりする働きを担っています。
膵炎はこの膵臓の膵酵素の漏出や活性化により自分の膵臓を消化してしまい、炎症反応が起きてしまう病態をさします。臨床症状としては食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状がみられることもありますが、重症化すると命にかかわる恐ろしい病気です。猫では重篤であっても臨床兆候が認められないこともあります。