▸病態
本疾患の原因疾患の多くは僧帽弁閉鎖不全症でなかには拡張型心筋症や動脈管開存症などにも起因します。これらの疾患により心臓に容量負荷が生じ左心不全に陥り、肺に水がたまる肺水腫になります。
▸臨床症状
一般的な臨床症状として肺に水がたまることによる呼吸困難や頻呼吸を呈し、努力性呼吸を行うための特徴的な姿勢を示します。必ずしも発咳がみられるとは限りません。身体検査では粘膜蒼白、頻脈や徐脈、低血圧、低体温などが認められます。
▸診断
診断では心拍数、血圧の測定、レントゲン検査、肺エコー検査などにより診断を行います。また胸水、腹水、心嚢液の貯留などの確認も重要です。
▸治療
病態が悪化している場合まず酸素吸入(ICU酸素室)を行うことが重要です。また呼吸状態が重篤であり極度の循環不全で虚脱状態や呼吸不全が顕著になった場合は気管挿管が必要となります。
うっ血に対しては即効性のある利尿薬を投与し、心臓への負担を軽減させます。
副腎皮質機能低下症(アジソン病)
病態
この病気は副腎という内分泌器官からのステロイドホルモンの分泌不足によって引き起こされる病気で元気消失や体重減少、嘔吐や徐脈、けいれんなど様々な症状を示します。特に電解質のバランスが崩れていることが見られます。犬ではしばしばみられ、猫ではごくまれにみられます。
‣病態
内分泌系の疾患の一つで 脳の下垂体や副腎の腫瘍等によって、副腎という内分泌器官から代謝にかかわるコルチゾールという重要なホルモンが過剰に分泌され、健康に悪影響が出る疾患で、糖尿病、種々の感染症、高血圧などの合併症も併発することがあります。
症状としては多飲多尿、食欲亢進、左右対称脱毛、呼吸が荒い、腹部が腫れる、元気が無くなる等が見られることが多いです。
‣病態
甲状腺で産生・分泌されるホルモン(サイロキシン等)の欠乏により引き起こされる病気です。先天的なものから腫瘍や外傷などが原因となることもあります。5歳以上の中~高齢犬での発症が多くみられますが、幅広い年齢で発症します。
‣臨床症状
元気消失、体重増加、低体温、心拍数の低下、皮膚の硬化、脱毛、皮脂・フケの増加、色素沈着、嗜眠、発作、昏睡
‣診断
血液検査によって血液中の甲状腺ホルモン値と下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンの数値を測定します。甲状腺の画像検査(超音波、CT)などで萎縮を確認することもあります。
‣治療
甲状腺ホルモン製剤によりホルモンを補充し、コントロールします。適切なホルモン量は個体差があるため、定期的な血液検査によって過不足がないか調べ必要があります。
甲状腺の機能自体の回復は難しいため、投薬については長期的に行う必要があります。
‣病態
猫に多く見られる病気で甲状腺の働きが異常に活発になり、甲状腺ホルモンが多量に分泌される病気です。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうと、過活動状態になってしまい、いつもより元気があるように見えてしまうことがあります。
‣臨床症状
食欲の増加、多飲多尿、食べているのに痩せる、落ち着きがなくなるなどの症状があります。
‣診断
触診にて甲状腺が腫大していないか、血液検査にて甲状腺ホルモンを測定します。
‣治療
甲状腺に腫瘍がある場合は外科手術、化学療法または放射線治療を組み合わせて治療します。甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑える薬を投与することで、ホルモンの分泌量を低下させ、症状を緩和させます。また、甲状腺ホルモンの原料であるヨウ素の摂取量を抑えた食事療法により、過剰分泌を抑えることができます。
猫の糖尿病
▸病態
猫の糖尿病はインスリンの不足やインスリン抵抗性により高血糖が生じ、さまざまな代謝異常を引き起こす病態です。肥満や膵炎、その他の原因(炎症性疾患、特定の内分泌疾患、食事性)で起こることが知られています。糖尿病は進行すると最悪、死に至る疾患でもあり、治療が必要とされる疾患です。
▸臨床症状
初期には多飲多尿、多食にも関わらず体重が低下する、などの症状が見られます。糖尿病が進行しケトアシドーシスを併発すると元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢、脱水などの症状を引き起こします。
▸診断
血液検査において、持続性の高血糖が認められることや、尿検査で尿中に糖やケトン体が排泄されていることを確認します。
▸治療
治療法としては、基本的には外側からインスリンを補充することで糖の吸収を助けることが主な治療です。また、適切な食事管理も必要となります。治療開始時に猫の状態が悪い場合は、数日入院して体調を整えながらインスリン療法を開始していきます。その後は、血糖や猫の状態を見ながら自宅でのインスリン注射(病院で丁寧に指導します)を行っていただき、通院頻度やインスリン量などを決定していきます。
しかし、中にはインスリンの効果が見られない「インスリン抵抗性」の糖尿病が存在します。
その場合、その抵抗性を作る原因となっている疾患を見つけ糖尿病と並行して治療を行わないといけません。
猫の糖尿病の中には、食事管理や肥満の改善を行うことで、インスリンの治療が必要なくなるケースもあります。また糖尿病が比較的早期に診断され、身体のインスリン分泌能力が回復する見込みのある段階で治療を行った場合にもインスリン治療から離脱することが可能です。
▸病態
犬の糖尿病は中高齢以上で発症しやすいとされており、オスに比べて避妊していないメスに発症しやすいとされています。犬の糖尿病には基礎疾患が存在していることがあり、特発性膵島萎縮、膵炎、クッシング症候群などがあります。犬の糖尿病の多くがインスリンの分泌能が減少しており、それにより糖が細胞に吸収できない状態となり、高血糖となります。
▸臨床症状
症状としてよく見られるものとして、飲水量の増加、尿量の増加、食事量の増加、食事量の増加にも関わらず削痩することがあげられます。
▸診断
血液検査において、持続性の高血糖が認められることや、尿検査で尿中に糖やケトン体の有無を確認します。また血液ガス測定によってアシドーシスが生じているかの評価が可能です。
▸治療
治療をせずに症状が進行すると糖尿病性ケトアシドーシスとなり命に関わる状態となるため、早期に治療することをお勧めます。治療としてはインスリンを補填することで、糖がうまく体に吸収されるようにします。猫の糖尿病とは異なり、犬の糖尿病は生涯インスリンの投与が必要となるケースが多いことが知られています。そのため定期的な血糖測定が必要となり、また他の疾患の併発にも注意しなければなりません(例えば、腎障害、感染症、神経障害、白内障など)。